津波対策

 2006.5.4,5 マナ島AQUATREK及びマナ・アイランド・リゾートあてに送ったメールから自分で引用。


*マナ島での津波対策アドバイス

 (内容に誤解が生じると人命に関わるので、本文の部分引用を禁じます。転載の際は萩谷にご連絡ください。)

 津波対策ですが、まずは津波を起こす可能性のある地震の発生場所を把 握していただくことが大切であると思います。

 フィジー周辺では、トンガ−ケルマディック海溝周辺が可能性の高いと ころです。さいわい、この海溝では太平洋プレートの沈み込みの角度が急 で、津波を起こす可能性の高い、浅い震源の地震が起きにくい構造になっ ているので、これまであまり被害のある津波は起きていないと思います。

 もし、トンガ−ケルマディック海溝で震源の浅い巨大地震が起き、津波 が発生した場合、第一波が到達するのは、地震発生から1時間〜2時間後 です。津波の速度は水深5000mで時速800km程度ですので、地震波の秒速8km =時速30000kmよりははるかに遅く、地震を感じてから1時間ほどは余裕が あります。(これだけ遠いと地震を感じない可能性は高いですが)

 また、震源に近いトンガなどの津波情報を参考に、避難するかどうかを 判断できますし、さらには、フィジー国内でも東部のスバに津波が到達し てから、西部のマナ島に津波が到達するまでには、おそらく十数分程度の 時間的余裕があります。スバで津波が来たという連絡が即座に届けば、避 難するには充分な時間があるでしょう。

 もうひとつ、トンガ−ケルマディック海溝以外では、フィジー周辺での 海底地滑りで津波が発生する可能性はあります。ハワイ諸島では島をつく る火山体の裾野部分の海底地滑りによる巨大津波の危険が本気で議論され ていますし、過去にそれが起きた痕跡もありますが、フィジーの場合はハ ワイ周辺ほど問題ではありません。しかし、多少注意しておく必要があり ます。海底地滑りの場合は、地震もほとんど感じないので、ちょっと予測 が困難で対処が難しいところです。

 日本の南西諸島など、津波が頻発するところでは、過去の津波の痕跡と して、津波石と呼ばれる巨岩が陸地にのし上げていたりしますので、ある 程度予測を立てることができます。このような痕跡を僕はフィジーで見て いません。ですから、そう津波の危険がある地域ではないのだな、と思っ ていました。

 マナ島の場合、島内に30m以上の高所があって、避難できますので、他の いくつかの島より安全だと言えるかもしれません。津波は、波が見えてか ら避難しても助かることは多いようです。いずれにせよ、備えをしておく ことは大事ですし、スタッフの皆さんが正しい知識を身につけ、適切な判 断をしていただくことが、被害を減らす上で最も大切なことだと思います。


(津波の大きさを決めるもの)

 津波の規模を決めるものは、海底の変位に伴って上下に動いた海水の体 積です。それが大きければ大きな津波になります。

 海底の変位は、地震を起こした断層が海底面まで到達して生じるので、 震源が浅く、また地震の規模(Magnitude)が大きいと、生じやすく、また 大きくなります。
 地震断層の上下方向の変位が問題であって、横ずれは問題ではありませ ん。横ずれ型の地震(フィジー近海に多い)では津波は起きにくいことに なります。逆に、海溝付近での地震は、上下方向の変位を生じやすく、危 険です。

 仮に海底に上下方向の変位が生じたとして、動きうる海水の量は、その 海底面の深さが深いほど大きくなります。水深5000mの海底と、1000mの海 底でくらべれば、同じ面積であれば海水量が5倍違いますから、津波の波 高もそれだけ異なる(浅い海の方が小さい)ことになります。

 海底の上下方向の変位を起こす面積ですが、震源が同じ深さなら、規模 (Magnitude)が大きいほど広い面積で変位が生じます。M7とM8では、地震の エネルギーは30倍違いますが、非常に簡単に計算して、仮に単純にそれを 面積に置き換えれば、縦横5倍と考えて、海底の変位を起こす範囲が、M7 の場合は100km四方の範囲、M8の場合は500kmの範囲と考えていいでしょう。 (少し大きめの見積もりです。震源が深ければもっと小さいですし)M6で は20km四方、M5では4km四方ですから、津波の危険という意味では、M6以下 の地震ではほとんど問題にならないといえます。

 要するに、津波の波高は地震によって変化した海底の上下方向のずれ、 それによって生じた海水のへこみや出っ張りの体積が問題です。それは、 地震の規模が問題なのと、底面積×高さの問題で、深い水深のところが問 題です。
 フィジー近海は、地震の規模が小さいのと、水深が浅い点、さらに断層 の性質として横ずれ成分が大きいという推定から、あまり問題ではありま せん。

まとめると、

1)震源の直上付近の海底の水深が深いと大きい
2)地震の規模が大きいと大きい
3)地震の震源が浅いと大きい

 ということです。

 地震の規模に関しては、USGSの以下のページを僕は見ています。

http://earthquake.usgs.gov/
http://earthquake.usgs.gov/eqcenter/recenteqsww/Maps/region/S_Pacific.php

 Earthquake Listのところをクリックすると、過去1週間の震源の位置、 震源の深さやマグニチュードが一覧になって出てきます。

 ヤサワの群発地震は、僕は注意していなかったので、調べてみますが、 あまり心配することはないでしょう。

 むしろ、まだよく調べていないのですが、ニューヘブリデス海溝の地震 がどんな性質を持っているか、確認しないといけないと思っています。


H.Hagiya 2006.5.4-5